「入魂のレプリカ」

 

私は、アメリカ出身の某ロックバンドの大ファンである。
多少なりとも洋楽を聞く方で、知らない人はいないであろう大御所バンドで、メンバー5人は、お揃いのペンダントを着けている。
ノベルティグッズに描かれていたり、ステージの床に大きく描かれていたりと、バンドのロゴ的意味合いのあるマークをデザインしたもので、今でこそ各人思い思いのアクセサリーをつけているが、世界中で大ブレーク真っ最中だった当時は、どのグラビアを見ても、そのペンダントを着けて写っていた。

7年前、このペンダントを作ってしまおうという企画が持ち上がり(といっても、発案者は私なのだが)、我こそがナンバーワン・ファン!と豪語する仲間4名を募った。
制作担当は、当然私である。
まずは資料集め。
CDのジャケット、写真集、音楽雑誌等から、ペンダントがより鮮明に写っている
写真を探すところから始め、最終的に2枚をはじき出したが、どちらも完全ではなく、ひとつは実寸大なのだが、若干横を向いた写真であるため、ペンダントが正面を向いていない。
もうひとつは真正面を向いているものの、顔の大きさが2cm角しかなく、ペンダントは米粒大以下なのだ。
正しいサイズがわからなければ、図面の描きようがない。

そこで私はクローゼットから1枚のTシャツを取り出し、おもむろに電卓を叩き始めた。
メンバーのひとりが着ていたTシャツと同じものを、偶然にも持っていたのを思い出し、印刷されてある図柄の実寸と写真に写っている大きさを計って、縮小率を出したのだ。
その数値のおかげで、簡単にペンダントの実寸をはじき出すことができた。

次にディティール。当然ながら本物は見たことがないわけで、細工の具合は写真から判断するしかない。
べースが銀色で、中央部に金色のラインが2本。銀色の部分は、ダイアでも入っているのかキラキラしている。
プラチナなのか、アメリカだからホワイトゴールドか、若いロックミュージシャンがダイア?・・・と、あれこれ考えあぐねたが、低コストで作りたいという希望もあって、シルバーとジルコンを使うことにした。

図面が出来上がったところで、いよいよ加工出し。
今回のようなプレートタイプのペンダントは、エッジをきれいに出すために、プレス(型抜き)で作ることにした。
きれいに型抜きされた5枚の板にバチカン(鎖が通る部分)が付けられ、ペンダントらしくなってきた。

ジルコンが石留めされたあと、変色防止のロジウムメッキをほどこし、バチカンと2本の曲線には金メッキをかけた。
最後にシルバーチェーンを通して、5つの見事なレプリカが完成した。

東京ドームでのライブをひかえた数週間前、待望のお披露目&納品の日を迎えた。
写真でしか見る事のなかったペンダントが現物となって目の前に現れた感動と、メンバーと同じものを身につけられる感激とで、誰もが私同様、声にならない様子だった。
本来オリジナリティーを愛する私であるが、この時ばかりは、メンバーとも仲間とも「おそろい」であることが気持ちよかった。
こういう心理をわかってくれる方は少なくないと思う。

数カ月前の来日公演の折、知り合ったばかりの若いファンの子達がペンダントを目ざとく見つけた。
古株の仲間達は自慢げに見せるのだが、決まってそのあとは私の話で笑いを取る。
私の几帳面さを物語るかっこうのネタになってしまっているようだ。
あの時の感謝の念はどこへやら・・・。