「Miz. M のお話」

 

オーダーメイドの中でも、リメイクが好きである。
デザインに飽きてしまったり、サイズが合わなくなったり、譲り受けたものの古くて着けられないなどと、持ち込まれる方の理由は様々だが、購入したときの思い出や、くださった方への思いを大切にして、何よりも身に着けたいという思いが伝わるからだ。

先日、ある若い女性が持ち込まれたのは、彼女の母上が婚約の時にいただいたというダイアの指環だった。
飾りパーツが取れてしまったのと、もう着けなくなってしまったからとの理由で、ご主人の了解の元、娘である彼女に譲られたのだという。
まだまだダイアモンドが高価だった時代のこと、決して大きいとは言えない大きさだが、品質はさすがはブライダルだけあって、素晴らしいものであった。

購入したばかりのスポーティーな時計に合うようなリングにしたいというのが彼女の依頼だった。
フラットなブレスレットの雰囲気に合わせて、プラチナの平打ちリングをベースにすることにして、幅・厚みを、デザイン画を描いて見ていただいたり、サンプルリングをはめていただいたりしながら、ひとつひとつ決めていった。
ダイアのセッティングの段階になって、伺っていた予算に余裕がみられたので、ダイアを何石かプラスすることも出来ますよと、いくつかのパターンを提案させていただいたのだが、彼女は、このひと粒だけで作りたいという。
「シンプルな方がいいですから・・・」と笑っていたが、
父上が若かりし頃、母上に贈られた清楚でつつましい思いを、彼女も受け継ぎたいと思っていたのかもしれない。出来上がったリングを見て、母上もたいへん喜んでくださった。
この仕事を選んでよかったと思える至福の瞬間である。